2012年3月15日木曜日

検察独自鑑定でも、ゴビンダ氏のDNA特定されず


1997年、渋谷区円山町で東京電力の女性社員(当時39歳)が殺害された、いわゆる「東電OL殺人事件」は、無期懲役刑に服しながら再審の申し立てをしているネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏(45歳)の無実を証明する新事実が次々に明らかになっている。(本ブログ関連記事参照)
事件発生から14年目にして、昨年ようやく検察が開示した新証拠・計84点のDNA鑑定が進む中で、ゴビンダ氏ではない第三の人物XのDNAが、(1)被害者の膣内の精液(2)遺体の側に落ちていた陰毛(3)遺体の体表に付着した唾液(4)被害者のコートの左肩に付着した血痕などから検出され、このXが被害者と最後に事件現場で接触した人物であることが疑いようがなくなっている。

再審請求を審理している東京高裁第4刑事部は、これまでに職権で行った57点の鑑定結果だけで十分と判断し、残り27点は関連性や重要性がより小さいとして、鑑定は行わないことを決定している。しかし検察は、最後に残ったこの27点についても、独自に鑑定を行った。その鑑定結果が3月12日夕刻、弁護団に開示された。
それを受けて、弁護団が13日午後、記者会見を行った。冒頭、石田省三郎(いしだしょうざぶろう)弁護士は、「本日の新聞に相反する内容の記事が出ているため、客観的事実を明らかにするためにこの会見を開いた」と説明。27点の資料(被害者の手や衣服に付着した微物)から「(ゴビンダ氏と)一致するとみられるDNA型が検出された」(共同通信)「ゴビンダ氏や、第三者のものと特定できるDNA型は、いずれも検出されなかった」(時事通信)と、報道内容が錯綜していること対して、正確を期すための会見であることを説明した。
神山啓史(かみやまひろし)弁護士は「一部の資料について、請求人(ゴビンダ氏)のDNA型が一部のローカス(DNAの特定の部位)に混在して検出されている」という事実があるだけである、と説明した。
DNAによって個人識別を行う場合、現在はSTRという検査方法が標準的に行われている。これは、DNAの特定の部位で、塩基配列の繰り返し回数を調べ、それを型として同一人物か他人かを識別するものである。1箇所(1ローカス)だけでは、型のバリエーションは多くなく、他人でも同じ型が出ることも珍しくない。したがって現在は16箇所(15箇所の常染色体及び性染色体)を調べて識別力を幾何級数的に高めることで、正確な異同識別が可能になっている。
今回の検察独自鑑定では、一部のローカスにゴビンダ氏にも存在する型があった、というにすぎない。この型がゴビンダ氏に由来するか明らかではなく、被害者の手や衣服にゴビンダ氏が触れたことがある、という事実とは全くかけ離れている。
現段階では正式な鑑定書も出来上がっておらず、これらのDNA断片資料から有意な結論を引き出すことは不可能であり、弁護団は「検査データを鑑定人がどのように評価するかを待ちたい」と述べて会見を終了した。しかし、異同識別という意味では鑑定不能という結果になる可能性が高いものと考えられ、検察独自鑑定によっても、ゴビンダ氏に由来すると特定できるDNA型は検出されなかった、と結論づけるしかない。
少なくとも「再審請求受刑者とDNA一致」(デイリースポーツ・オンライン)など一部の報道に見られたセンセーショナルな文言には、何の根拠もないことが明らかになった。ネット版では共同通信の配信記事を掲載した東京新聞が、13日夕刊では「受刑者の型、検出せず」と報じるなど、報道にも軌道修正が見られている。
再審について裁判所、弁護団、検察が行っている三者協議は、3月19日に次回が予定されており、この日に審理を終結させ、東京高裁が再審開始か否かを決定するプロセスに進むものと考えられる。

<文責・今井恭平>